
網膜疾患
網膜疾患
網膜は、眼球の内面を覆う非常に薄い組織であり、角膜、水晶体、硝子体を通った光を感じ取ってその情報を電気信号に変換し視神経から脳に伝達します。カメラに例えるならばフィルムの役割をしていて、視覚においてとても重要な役割を担っています。網膜には視細胞が多数存在し、視細胞が受け取った光の情報は、視神経を通じて脳へと送られ、画像として認識されます。網膜の病気になると、視力低下、見えないところがある、変視症(ものが歪んで見える)など、日常生活に大きな支障をきたす深刻な症状が現れることがあります。
加齢黄斑変性は加齢に伴い黄斑に異常が生じる疾患です。黄斑の機能が低下することで、中心視力の低下、歪視、視野の中心が暗くなるなどの症状が現れます。加齢黄斑変性は、高齢化社会の進行に伴い、世界中で増加しており、視覚障害の主要な原因の一つとなっています。
欧米では成人の失明原因の第1位であり、日本でも高齢化社会の進行に伴い、患者数が増加傾向にあります。加齢に伴う黄斑の老化現象が主な原因と考えられていますが、遺伝的要因、環境要因、生活習慣などが複雑に関与していると考えられています。
原因は、加齢、遺伝的要因、喫煙、栄養不足などがリスク因子として考えられています。特に、喫煙は加齢黄斑変性の強力なリスク因子であり、禁煙が重要です。
症状としては、中心視力の低下、ものが歪んで見える、視界の中心がぼやける、細かい文字が読みにくいなどが挙げられます。これらの症状は、徐々に進行する場合もあれば、急激に進行する場合もあります。
加齢黄斑変性は、萎縮型(ドライ型)と滲出型(ウェット型)の2つのタイプに分類されます。
現在のところ、萎縮型に対しては確立した治療法はありませんが、ビタミンC、ビタミンE、ルテイン、亜鉛などを含むサプリメントを摂取すると加齢黄斑変性の発症頻度が下がると言われています。滲出型に対しては、抗VEGF療法(血管新生を抑制する薬を眼内に注射する治療)、光線力学療法(特定の波長のレーザーと薬剤を使用する治療)などが行われます。
加齢黄斑変性は、早期発見、早期治療が大切になるため、前述した症状のある方、高齢の方や、加齢黄斑変性のリスク因子を持つ方は定期的な検診を受けるようにしましょう。自己チェックとして、アムスラーチャートを使用し歪みがないか確認することも有効です。
糖尿病は、血糖値をコントロールするインスリンの働きが低下したり、インスリンが十分に分泌されなくなったりする病気です。高血糖の状態が続くと全身の血管が障害され、網膜の血管も障害されて糖尿病性網膜症になってしまいます。
糖尿病網膜症は、糖尿病の3大合併症のひとつで成人の失明原因の上位に位置します。放置しておくと網膜の血管が障害され網膜の酸欠状態が続き最悪の場合失明してしまいます。
糖尿病網膜症の重症度分類は大きく3つに分けられます。
初期の糖尿病網膜症で小さな出血や硬性白斑といったシミや毛細血管瘤(血管が盛り上がってできるこぶ)が生じている状態です。
この状態の時は眼科的な治療は基本的には必要なく血糖コントロールをして頂くことが大切です。
単純網膜症が進行した状態で、網膜の酸欠状態がより強くなってます。前増殖糖尿病網膜症では、レーザー加療を行い網膜の酸欠状態を改善させる必要があることが多いです。
前増殖糖尿病網膜症が進行した状態で新生血管が増殖していきます。増殖した新生血管が破れて硝子体出血を起こしたり、増殖膜が網膜を引っ張って難治性の網膜剥離を引き起こすことがあります。
糖尿病を患っている方は定期的な眼科検診が必要です。糖尿病と診断されたら眼科を受診し網膜症が起こっていないかチェックし、その後も定期的に検査を受けることが非常に大切です
網膜裂孔は硝子体の牽引によって網膜が破れてしまう状態です。網膜裂孔を放置しておくと網膜剥離に進展するため早急な治療が必要です。網膜裂孔ができると飛蚊症(黒い点や糸くずのようなものが見える)、光視症(光が走って見える)を自覚することがありますのでそういった症状が起こった際は早めに眼科受診しましょう。治療はレーザー光凝固で網膜裂孔を囲み、網膜剥離に進展しないよう治療します。
網膜剥離は、網膜が網膜色素上皮から剥がれてしまう疾患です。網膜剥離によって剥がれた部位は栄養不足になり機能が低下し放置すると最悪失明に至る緊急性の高い疾患です。原因としては、加齢による硝子体の収縮、強度近視、外傷などが挙げられます。症状としては、飛蚊症(黒い点や糸くずのようなものが見える)、光視症(光が走って見える)、視野欠損(カーテンがかかったように視野の一部が見えなくなる)、視力低下などが現れます。網膜剥離は手術で剥がれた網膜を元の位置に戻す必要があります。
飛蚊症や、光視症を自覚した際は、網膜剥離の初期症状である可能性がありますので、早めに眼科を受診してください。早期発見、早期治療が非常に大事です。
高血圧、動脈硬化が原因となることが多く、網膜静脈に血栓が形成されることで静脈の圧が上昇し血漿成分が血管外に漏出することで網膜出血、網膜浮腫が起こります。リスク因子としては、高血圧、動脈硬化、糖尿病、脂質異常症などが挙げられます。
症状としては黄斑浮腫による視力低下、変視症、視野障害などが現れます。
網膜静脈閉塞症は、網膜中心静脈閉塞症と網膜静脈分枝閉塞症の2つのタイプに分類されます。
網膜静脈閉塞症の治療法としては、レーザー光凝固で新生血管発症予防、黄斑浮腫に対して抗VEGF療法、新生血管が発生し硝子体出血などを起こした場合は硝子体手術などを行います。
網膜静脈閉塞症は、基礎疾患の管理と、早期発見、早期治療が大切です。高血圧や糖尿病などのリスク因子を持つ方は注意が必要です。
黄斑円孔は黄斑部に穴が開いてしまう疾患です。黄斑は網膜の中心部にある視力の中でも特に中心視力を担う重要な部分です。黄斑円孔になると、視力低下や変視症などの症状が現れます。
硝子体はゲル状の物質で、加齢により硝子体が収縮し網膜から剥がれていきます。この過程で、黄斑に牽引力がかかり、円孔が形成されます。その他として外傷が原因となることもあります。
症状としては、視力低下、変視症(中心に向かって歪む)、細かい文字が読みにくいなどが現れます。症状の程度は、円孔の大きさや進行度合いによって異なります。
治療法としては、硝子体手術が行われます。硝子体手術は、眼球内に細い器具を挿入して行う手術で、硝子体を切除し内境界膜剥離、ガスタンポナーデを行います。眼内に注入されたガスがしばらく眼内にとどまり、黄斑円孔を内側から圧迫し閉鎖を促します。
黄斑円孔は、早期発見、早期治療が大切です。視力予後は放置期間が長いと良くないので視力低下や変視症などの症状が現れた場合は、早めに眼科を受診するようにしましょう。
網膜疾患は、早期発見・早期治療が非常に重要です。少しでも気になる症状があれば、放置せずに眼科を受診しましょう。網膜疾患は放置期間が長いと元通りになりにくいことが多いので注意が必要です。また定期的な眼科検診を受けることで、網膜疾患の早期発見につながり、早期治療を受けることで、視力低下や失明のリスクを減らすことができます。
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